AMDのRDNA3は、RDNA2アーキテクチャから大幅に進化した設計となっており、エネルギー効率、パフォーマンス共に大きな向上が図られています。RDNA3では、GPUのスケーラビリティが向上し、大幅に性能を引き上げることができます。本記事では、RDNA3の性能の詳細とレイトレーシングについて解説していきます。
RDNA3について
最大の特徴は、新しい「チップレット」設計の採用です。RDNA3では、1つのパッケージの中に複数の小さいチップ(チップレット)を組み合わせるアプローチを取っています。これにより、従来の単一モノリシックチップ設計と比較して、製造効率が向上し、歩留まりの改善につながります。また、欠陥があった場合でも、欠陥のあるチップレットのみを切り離すことができるため、歩留まりの大幅な向上が見込めます。
RDNA2より54%高い性能
AMDの公式発表からの資料によると、RDNA2よりも+54%性能が高くなっています。
また、RDNA3のチップレットは、GPUコアチップレット、メモリチップレット、I/Oチップレットの3種類があると見られています。
インターポーザーと呼ばれる高速インターコネクト技術により、これらのチップレットを高いデータ転送速度で接続することができます。チップレット設計によってスケーラビリティが向上し、GPUの規模を柔軟に拡張できるようになりました。
Navi 31
Navi31はRDNA3のGPUコアチップレットの1つで、TSMCの5nmプロセスで製造されています。
Navi31には、最大6つのシコンサンドボックスが搭載されており、1つのシコンサンドボックスには最大12個のWGP(Work Group Processor)が含まれます。WGPはコンピュートユニットやレイアクセラレータなどを内包しており、RDNA2の Compute Unitに相当します。
Radeon RX 7900 XTXに搭載されたNavi31フルコンフィグ版では、60基のWGP、3840基のストリームプロセッサを搭載。Radeon RX 7900 XTでは56基のWGP、3584基のストリームプロセッサとなっています。チップレット設計の採用により、製造歩留まりを向上させつつ、大規模なGPUコアを実現しています。
Navi31ではクロック速度も向上しており、ゲーミング性能はRDNA2世代の2倍以上に達しています。RDNA3アーキテクチャの恩恵を最大限受けた製品であるNavi31は、AMDのゲーミングGPUの次世代を強力に牽引する存在となっています。
レイトレーシング機能の強化
RDNA3はレイトレーシング機能が、とても強化されています。
レイトレーシングとは?
レイトレーシングとは、光の物理現象を模倣したレンダリング技術のことです。
レイトレーシングは、視点から発射された「光線」がシーン中の物体と交わるか否かを算出し、その交点の色や明るさを求めることで画像を生成します。
これは、従来のラスタ化ベースのレンダリングとは異なる手法で、リアルタイムグラフィックスでは困難とされてきました。しかし、GPUの計算能力向上に伴い、リアルタイムレイトレーシングの実現が可能になってきています。
レイトレーシングの大きな特徴は、反射、屈折、陰影など光の物理的な挙動を高精度で再現できることです。このため、非常にリアルな画像を描画することができます。映画のCGでは既に利用されている手法です。
RDNA3のレイトレーシング機能
RDNA3アーキテクチャでは、レイトレーシング機能が大幅に強化されています。AMDはRDNA3世代のGPUで、映画品質のリアルタイムレイトレーシングを実現することを目指しています。
AMDはRDNA2世代からレイアクセラレータをGPUに統合していますが、RDNA3では次世代レイアクセラレータが導入され、レイトレーシング性能が飛躍的に向上しています。
Intersection Engine
新しいレイアクセラレータは、Intersection Engineと呼ばれる専用ハードウェアを搭載しています。Intersection Engineは、光線と三角形の交点を高速に算出することができ、レイトレース性能を大幅に高めます。AMDによると、新アーキテクチャによってレイトレーシング性能は1.5倍~2倍向上したとのことです。
BVHトラバーサル対応
また、RDNA3のレイアクセラレータは、ビームを用いた高速なBounding Volume Hierarchy(BVH)トラバーサルに対応しています。これにより、シーンの空間分割オクトリーをより高速にたどれるようになり、レイトレースの効率が改善されています。
レイトレーシング専用のキャッシュメモリ実装
ここがRDNA3の最大の利点ですが、RDNA3ではレイトレーシング専用のキャッシュメモリも実装されています。
レイトレース処理時のデータアクセスが最適化されています。このキャッシュにより、レイトレース時のメモリ帯域幅請求量が減少し、フレームレート向上に寄与すると期待できます。
RDNA3を搭載しているRadeonグラフィックボード
RDNA3アーキテクチャを採用しているのは、AMDから2022年11月に発表されたRadeon RX 7900シリーズです。このシリーズには、Radeon RX 7900 XTX、Radeon RX 7900 XTの2モデルがラインナップされています。
Radeon RX 7900 XTXは、RDNA3のフラッグシップGPUであるNavi31をフルスペックで搭載しています。ストリームプロセッサ数は6,144基で、最大クロック速度は2.5GHzを達成。24GBのGDDR6メモリと16GBモデルも用意されています。
Radeon RX 7900 XTは、Navi31をやや制限したスペックで搭載していて、ストリームプロセッサ数は5,376基です。メモリ容量は20GBの設定となっています。いずれもPCI Express Gen5インターフェイスをサポートしています。
RDNA3世代のGPUは、前世代RDNA2比で1.7倍の性能/ワットを実現したとAMDは述べています。新アーキテクチャによって大幅にパフォーマンスとエネルギー効率が向上しているのが特徴です。
Radeon RX 7900シリーズは、4K・8KゲーミングやVR、ストリーミングなどを快適にこなせる実力があります。RDNA3の特徴であるレイトレーシング性能も大きく強化されており、リアルタイムレイトレーシングゲームも問題なくプレイできる性能があります。
AMDのRDNA3ベースのグラフィックスカードは、次世代の高性能ゲーミングを実現するための重要な製品といえます。今後のラインナップ拡充にも期待が集まっています。
GeForce RTX 4090との比較
総じて、Radeon RX 7900シリーズは高い性能であるということが分かったと思いますが、気になるのがライバルであるGeForce RTX 4090との違いです。
それは、過去にこちらの記事で詳しく解説しました。
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